Ayaka Onodera
2024年4月23日
難民とともに、一歩前へ。誰も取り残さない未来に向けたプロジェクト
はじめに
2023年10月26日、アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京にて「社会課題への取り組みは事業強化へ活かせるか? - 難民支援への取り組みからヒントを探る」が開催されました。このイベントは、アクセンチュア株式会社と株式会社SEAMESによる連続講義の第一弾として、「難民支援から考える事業強化」をメインテーマに掲げています。国連UNHCR協会との協力のもとに、様々な業界のスピーカー、オーディエンスとのディスカッションを通して、難民支援という切迫した問題にビジネスセクターがいかに効果的なソリューションを提供できるか、色々な観点から皆様と共に考えていく時間となりました。
世界情勢と増え続ける難民
ウクライナ危機をきっかけに、日本中の企業から支援が集まり、日本国内でも難民への関心が高まりました。しかし、刻一刻と変化する社会情勢の上では、難民の数は近年稀にみるスピードで拡大しており、継続的な支援モデルが求められます。
「世界の74人にひとりが紛争や迫害、自然災害を理由にふるさとを追われ、避難している状況です。」世界の難民の状況を、国連UNHCR協会法人PPHユニット(法人・広報・渉外)ユニットリーダー島田さんに解説いただきました。
支援活動の現状
シリア、ウクライナ、アフガニスタン、いずれもメディアで目にする通り非常に深刻な難民情勢が発生し、長期化することで周辺の支援国への財政的な圧迫も二次的な問題を生じさせています。数で言えば約1億800万人という日本の人口ほどの人々が強制移動を余儀なくされ、特に子どもや、女性など脆弱な人々が多大な影響を受けています。生まれてからずっと難民として生活している若者の数は増える一方で、現在の彼らの身の安全はもちろんのこと、彼らの未来をどう守っていくかという点で、就労支援、自立支援、教育の観点での支援が重要になっています。
難民を取り巻く情勢は、2022年以降だけでも同時多発的に起きています。昨年からのウクライナ情勢、アルメニア、スーダンの武力衝突などに加えて、シリア、アフガニスタン、ロヒンギャのように、難民の危機的な状況が長期化していることもUNHCRの資金不足に拍車をかけています。また、メディアに大きく報道される一地域への支援が偏ることによって、それ以外の地域やセクターが「忘れられた難民危機」と呼ばれるような、”支援網からの取り残し”も問題視されています。
企業の支援の現状
これまで日本で国連UNHCR協会に寄せられる支援の大半は個人の方からでしたが、ウクライナ危機をきっかけに、世界的に見ても群を抜いて日本の法人からの支援が拡大した、という経緯があります。
これは社会貢献的な企業判断がより受け入れられやすくなったという、日本社会にとってのターニングポイントであると同時に、難民支援の表明と、それを織り込んだ事業構想が、それぞれの企業の価値を高めるための要素となる兆しではないかと考えています。
グローバル難民フォーラム(GRF)の機運醸成を目指す「ONE MORE STEP INITIATIVE JAPAN」プロジェクト
今年12月に開催される「第2回グローバル難民フォーラム」からの4年間、日本が初めて共同議長国を務めることが決まりました。フォーラムに向け世界各国の政府、民間、市民社会が集まり、世界的な難民問題の解決策を議論します。日本社会において、特にビジネスセクターにおける難民支援への理解度、関心を高めていくにはどうするか?それを模索する上で、「ONE MORE STEP INITIATIVE JAPAN」プロジェクト構想に向けた意見交換が行われました。
このプロジェクトの特徴を、アクセンチュア株式会社マネジング・ディレクター コーポレート・シチズンシップ推進スポンサーの奈良さんにご説明いただきました。
①課題の特殊性と馴染みの薄さ
まずひとつ目は、難民支援という日本社会、日本人にとってまだまだ馴染みの薄い難題であるということです。
②従来と逆のアプローチで企業が発想すること
従来の社会貢献やSDGs活動は、自社の事業に紐づく課題を見つけ改善する手法ですが、このプロジェクトでは難民支援、というお題ありきで「自社のビジネスとのウィンーウィンな組み合わせ方はどうあるべきか」を導き出す、これまでとは逆転の発想が求められます。
③実質的な協働ネットワークを形成するチャンス
社会課題の解決にはマルチステークホルダーによる協働が重要と言われます。しかし、実際の現場では経験がまだまだ不足しています。
これらの特徴を踏まえると、我々は非常にチャレンジングな課題に取り組んでいると感じます。だからこそ、企業それぞれが事業を通じて実現しようとしているより良い社会・世界への想いと、その想いを集合体にすることよって解決への大きな一歩にできる可能性にワクワクしています。
「事業ドライブ型社会課題解決」推進に向けて企業ができること
①触れやすい切り口をつくること
今回、キーノートスピーカーとして登壇していただいた三菱地所の大林さんには、大丸有SDGsのACT5の概要についてご説明いただきましたが、ご自身の活動を「街づくりから難民支援への関心を高める取り組み」と表現しています。サスティナブルフード、皇居周辺のお堀の環境保全、チャリティウォーク、ダイバーシティ&インクルージョンをテーマにした働き方を考えるコミュニティ、映画祭の運営など、丸の内エリアを中心に体験型のチャリティイベントを企画し、その収益を国連UNHCR協会やクラダシ基金、Learning for Allなどに寄付しています。こういった活動を通して、より多くの人がサステナビリティやチャリティに「気軽に」触れるきっかけを作っています。実際に三菱地所が中心となって推進する「ACT5メンバーアプリ」は、2023年10月時点で3914名もの登録者数がいます。シンプルに面白そう、興味がある、という気持ちでまずは参加してもらった先に、寄付や社会課題について知る。そんな方法でまずは何かの形で携わることができる環境づくりに励んでいます。
その際、当然、一社でできることに限りがあるため、三菱地所以外にも農林中金、日経新聞・日経BPなど他分野の企業数社とパートナーシップを組んで実行委員会を組んで議論を闊達にしているそうです。
②サステナビリティも経営目線で考え意思決定を行うこと
ユニクロ、ジーユーなど大手ブランドを手掛ける株式会社ファーストリテーリングさんには、ユニクロで難民支援が始まったきっかけ、そしてユニクロ・ジーユー店舗での難民雇用創出についてお話いただきました。
常に「現場・現物」を大切にしているファーストリテーリングだからこそ、難民キャンプへの衣類の寄付については役員自ら足を運び、自分の目で耳で現場で必要とされているものを観察し、社内のナレッジとして共有していくサイクルがあるそうです。
このようにサステナビリティの重要性を経営目線で考えるひとが理解し、相応の権限を持っていることが非常に重要です。経営においてはブレーキ側になりがちなCSR、サステナブルの取り組みをアクセル側の人間がドライブできるようにすることで、企業の在り方の前提に社会課題解決の要素を落とし込むことが可能になるだけでなく、より加速できるのではないでしょうか。これまでの日本企業におけるサステナビリティの取り扱いを考えると、これからは営業、R&D、製造、人事など各部門それぞれが一緒に変わっていく必要があります。その意識改革も経営陣を筆頭にコミュニケーションを取っていくことで実現できるのではないでしょうか。
これからの難民支援の在り方とは?
難民の発生は紛争や迫害、自然災害などの不可避な複合的要因によって、国際社会が共通して持つ大きな問題となっています。不安定な政治情勢などによって、その深刻さは年々増すように感じられます。これからの難民支援は「CSRの枠を超えた取り組み」として、生活に密接した導線が確保され、人が行動することで支援が繋がっていく、そんな継続性、持続可能性を必要としています。公的な方針を企業側がどう取り込み、消費者のニーズと支援のサイクルをマッチさせ、自操させられるか、そこが論点になっていくのではと考えています。
アクセンチュア・Droga5
多様な業界の多彩な方々が集まり、新しい支援の可能性について考え合うことができ、大変有意義な時間となりました。社会課題は、すぐに解決できるものではないからこそ共に考え、つながりを作っていくことが大事。一時的な寄付としての支援を超えて、各社のらしさや強みを起点にクリエイティブな発想で考えていくことで、もっと面白い取り組みが広がっていくと改めて実感いたしました。アクセンチュア・Droga5としても、今後も新しい支援のカタチを探っていきたいと考えております。 ONE MORE STEP INITIATIVE JAPAN 公式ウェブサイト:https://www.japanforunhcr.org/how-to-help/one-more-step-initiative/
国連UNHCR協会 広報 島田祐子様
UNHCRチームが企画するのとは全く違う視点からの、企業と社会課題の解決という両立という切り口で、我々自身もアイディアのシャワーを浴びることができました。参加している企業関係者の方々の熱量が時間を追うごとにどんどん高まっていくことを実感でき、アクセンチュアチームと協働させていただけることのバリューについて再認識致しました。
「ONE MORE STEP INITIATIVE JAPAN」では、国連UNHCR協会がもつ既存の企業様との連携を深めるだけでなく、新しい企業様とのパートナーシップを拡大していくためのプラットフォームとして大きな可能性を感じています。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
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国連UNHCR協会とは
国連UNHCR協会は、国連の難民支援機関である UNHCRの活動を支える日本の公式支援窓口です。UNHCRの活動資金は、各国政府からの任意の拠出金ならびに民間からの寄付金に支えられています。
より広く民間からも支えていこうという機運が世界的に高まり、日本では2000年10月に、民間の公式支援窓口として国連UNHCR協会が設立されました。
UNHCR駐日事務所と連携しながら、UNHCRの活動を支えるために、企業・団体・個人などの民間を対象とした広報・募金活動を行っています。 公式ウェブサイト:http://www.japanforunhcr.org